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第030-1話 死角になる場所

作者: 百舌巌
last update 最終更新日: 2025-02-01 11:01:05

廃工場。

 ディミトリは背中のバックから暗視装置を取り出した。

 鏑木医師の所で収穫した物だ。使い勝手の確認も兼ねて持ってきたのだ。

 バックの中身は他にガン雑誌も入れてある。万が一の時にはミリタリーマニアを装う為だ。

 ディミトリは暗視装置を頭に付けて電源を入れてみる。

 収奪した後に一度だけ試してみたが、昼間だったせいなのかピンと来なかったのだ。

 そして、思っていたより鮮明に見えるので驚いてしまった。

(最新型なだけ有って建物内の様子が鮮明に見えるな……)

 兵隊時代に使っていたものは、ロシア製の重くて使い勝手が悪い物だった。それと比べると雲泥の差がある。

 手袋をした自分の手を映しながら握ったり広げたりしてみた。

 ロシア製の物だったら真ん中が明るくて端っこが暗くなってしまう。ところが、使っている中華製の奴は全体が均一に明るいのだ。もっとも、中身の日本製の部品で実現出来ているのをディミトリは知らない。

(ふむ…… 時代の進む速度が凄いもんだな……)

 とりあえずは、取り残されないように気を付けないと、中身が三十五歳のディミトリは思ったのだった。

(さて、人の気配はしないし奥に進んでみるとするか)

 気を取り直したディミトリは足音に気を付けながら進んでいった。工場の中は耳が痛くなるような静寂に包まれている。

 聞こえるのはディミトリの息遣いだけなのだ。

 裏側から入ったからなのか廊下には小部屋が並んでいた。

 元は工場だったので様々な作業を部屋ごとに行っていたのかもしれない。

(まあ、良くある配置だな……)

 その中の一室には錆びたバーベキューコンロが部屋の中央にあった。結構、使われていたのだろう。炭などが残ったままだ。

 脇には調味料たちが無造作に置かれている。さすがに今はもう使え無さそうだとディミトリは思った。

(浮浪者が入り込んで生活してたっぽいな……)

 部屋の隅に有る薄汚れた布団を見ながら考えた。そこには元の住人が捨てていったらしい衣類などが積まれている。

 だが、布団に薄っすらと掛かっている埃の具合から見て、長らく使用されて居ないものと判断出来た。

 その隣の広めの部屋は焦げ跡がアチコチ付いている。

 空き缶とかも落ちているので、DQN達に花火でもされた跡であろうと推測した。

(室内で花火って何を考えていたら出来るんだ……)

 外でやると目立ち過
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